慌てて周りを見回すと、水がめは少年の近くに沈んでいた。ふたもちゃんと閉まっているし、どうやら中身は無事だったようだ。 ヤレヤレと水がめを抱えて川からあがる。 服は当分乾きそうにないが、このカラッとした暑さの中だとかえっていいかもしれない。とにかく早いとこ、水がめをもっていこう。うん、そうしよう……と、少年は気をとりなおして砂利の上を歩きはじめた。 しかししばらく歩いて、なんだか水がめの様子がおかしいことに気がついた。水がめは岸にあがってからずっと手に抱えていたのだが、さっきから絶え間なく水がしたたり落ちている。 (もしかして!) 少年の顔が、みるみる青くなっていく。 全身ぬれていたので今まで気づかなかったが、水がめの底に小さなひびが入っていて、そこからずっと中身がもれだしていたのだ。 このままだと、ばあちゃんちに着くまえに水がめの水は……!! そう考えた時には、少年は水がめの底を手でおさえ、もう駆け出していた。 (この水は絶対に、絶対にばあちゃんに届けなきゃいけないんだ! 父ちゃんに言われたんだから! 大切な水なんだから!) 砂利につまずきそうになるが、今は足元を気にしてなんかいられない。 草をかきわけ、森のなかを必死に走る。水がめからしたたった水が、あとにポタポタ落ちる。 どれくらい走っただろうか。 木々の間からばあちゃんちがようやく見えてきた時、少年は思わず「ばぁーちゃーん!」と叫んでそのまま玄関に突進していった。 ガラス戸を勢いよく開け、早く!早く!と奥にいるはずのばあちゃんを必死で呼ぶ。そうこうしているうちに、手に抱えた水がめの下にはもう水たまりができている。 「まぁまぁ、何だっていうんだい」 ようやく気づいてくれたらしい。奥の部屋から顔を出したばあちゃんは、孫の慌てぶりに驚いてすっとんできた。 「どうしたんだい、その水がめ」 「これ!これ……」 あいさつすることも忘れて、少年は水がめをばあちゃんに押しつけたが、 「ほらほら、ちょっと落ちついて」 ばあちゃんは落ちつかない少年を制し、受けとった水がめのふたをパカリと開けた。 二人で顔をくっつけて中をのぞく。 水がめを横にして、かろうじてたまる程度……。中の水はほとんど無いといってよかった。 |