●8年目のノスタルジア●
2000.4.26


彼女は時々、小学生のお小遣いでは全部買えないような数の文房具を持ってきて、机に並べていた。
当時の小学生の流行は、近所の文房具屋にある…と言ってもおかしくない。
練り消しとか、小さなケースに入った匂い玉とか、可愛いシールとか。
私もうらやましいくらい、彼女の「コレクション」はいつも流行のモノで溢れていた。
問題は、クラスの女の子達は、彼女の「コレクション」を見に集まっているということ。
…流行には流行り廃りがある。
女の子達は、すぐに彼女の「コレクション」に…そして彼女に興味が失せる。
でも、彼女はまた新しい「コレクション」を学校へ持ってくる。
また女の子達は興味を示し、近寄り、飽きて離れていって…
エンドレス。
そんな彼女と一緒に居ることに、私はうんざりした。
「友達づくり」に「モノ」を使う彼女を軽蔑したところも……正直言って、あったと思う。
休み時間、彼女から離れ、別の友達と別の場所へ遊びに行くようになったのは、そんな輪の中に入りたくなかったからだ。

卒業するまで、私と彼女は「ただの同級生」以上「友達」未満の関係だった。
でも「今」の彼女には、友達がちゃんといる。私には理解できない関係だけれど。
とにかく…私の役目は終わったのだ、と思った。

でも、彼女はだんだんと学校へ来なくなって。
卒業式の日、姿を現すことはなかった…。

小学校を卒業して私立中学へ進学した私は、小学校のクラスメイトと会うことはほとんどなくなった。
そんなある日。
例の文房具屋に立ち寄ったら、彼女がいた。
棚のひとつ向こうに。
思わず話しかけようとしたけれど、
その瞬間…彼女の姿は棚の影に消えた。
彼女は1回私のほうを見て…目をそらして、
私の視界から消えた。

私は、はっきりと拒絶された…。

今までの小学校時代の思い出を、
私ごと忘れようとしていることがはっきり分かった。
後を追う気力も無かった。
何だか急に恥ずかしくなって、すぐにその店を出た。
そして、そのまま家まで走って帰った。

私…すごく残酷な事をしたのかもしれない。
「学級委員」としてじゃなく「友達」として、
私はどれくらい彼女のそばにいたというのか?
私が「彼女のため」と思ってしていたことは、
結局は自己満足でしかなかったのだ。
その後の彼女がどうなったのか、私は知らない。


そして今、目の前に彼女がいる。
思い切って声を掛けようか?
でも、そうしたら彼女は…8年前と同じように、
すぐに目をそらして去ってしまうかもしれない。
…いや…。
私の言葉が彼女に届くだけで十分だ。
鼓動が高鳴る。思い出が押し寄せてくる。
8年分の思いを込めて、彼女に言おう。

「元気だった?」


      
《終わり》



ものすごく久しぶりに小説を書きました。これを私の絵で漫画にすると雰囲気が吹っ飛びそうだったので、小説という形にしました。できれば、皆様のそれぞれの小学校を舞台に読んでくださると嬉しいです(*^^*)
しかし、「ゴム段」とか「匂い玉」って、今の小学生は知っているんでしょうかね…;;というか、これらはもしかしたら地方限定のもので、同世代でも知らない人もいるのかも。分からなかった人、すみません(^^;)
ちなみに「ゴム段」とは、長いゴムの輪を向かい合った2人の足首にくくり付け、間に立った1人が足を使って”あやとり”のようにリズム良く組んで踊る(?)遊び。「匂い玉」は半透明のツブツブした玉に、りんごとかクッキーとかプリン等、色々な香りを付けたものです。
(私は小学生の頃どちらもハマってました…しみじみ…)


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